起立性調整障害の息子の高校受験
この記事の目次
「別の高校に行きたい」
「今の学校でなく、別の高校を受験したい」
中3の9月にめまいで倒れ、学校にも行けずにほぼ寝たきりで過ごしていた息子が、ひと月ほどたった頃にそんなことを口にし始めました。
小児科、脳神経外科、耳鼻科等、いくつもの病院を受診しましたが原因不明で、息子は日々、食事の時に数十分起き上がるのがやっとの状態でした。
通っている中高一貫校の先生からは「欠席が続いても高校に進学できるので安心してゆっくり療養して下さい」と温かい言葉も頂いた矢先のことです。
息子は毎日「クラクラする」と眉間にしわを寄せて辛そうに横になっている状態で、電車に乗って学校に行くこともできないのに、あと数ヶ月後に受験するなんてありえないと、私はなんとか思いとどまらせようとしました。
「中学はお母さんが選んだけど、高校は自分で選びたい。」
息子の意志は固く、話し合いの結果、私は息子に自分で人生を選ばせてみようと思いました。
医師からは「特効薬があるわけではないので、めまいはいつ治るかわかりません。数ヶ月後か数年後か…」と言われていましたが、息子の人生、彼の意思を尊重しようと決めたのです。
不安に飲み込まれる
毎日、寝込んでいる息子を見ていると、私の心にはいろいろな感情が噴き出してきました。
11月の修学旅行までに元気になれるのか
毎日、寝ていて勉強もできないのに、受験なんてできるのか
せっかく中高一貫校に入ったのにもったいない
しまいには、なぜ私がもっと早く体調不良に気づいてあげられなかったのか
原因がわかる病院を見つけられないのも私のせいかも…
と自分を責めだす始末。
初めの数ヶ月は、そんな感情に押しつぶされそうになることもよくありました。
在宅勤務の私は、終日家で息子の看病をしていたので、息子が辛そうなのはわかりつつも、1日でいいからこの家から逃げ出したいと思ったことさえあります。
そしてそんなことを考えている私は母親として失格だと自己否定をしたりもしました。
自分で決める
息子の体調には波がありました。
少しよくなって起き上がれる時間が増えたかと思うと、数日後にはまたぐったり寝込んでしまうということの繰り返し。
倒れて数ヶ月後に診断名はついたものの、特効薬があるものでもなく回復の見通しもつかず、私の不安は募るばかりでした。
もちろん私以上に、思うように体も動かせずただ寝ているしかない本人が一番辛かったとは思います。
初めの目標は11月の修学旅行で種子島宇宙センターに行くことでしたが、出発日が近づいても起き上がることさえできず諦めねばなりませんでした。
次の目標は、元気にお正月を迎えること。
でもクリスマスが過ぎ年の瀬が迫ってきても、良くなる気配はありません。
しかし唯一高校選びのためにPCで学校のHPを見る時だけ、息子の様子が違っていました。
以前は暇さえあればスマホでYoutubeを見ていた息子でしたが、めまいがひどくてスマホに一切触れませんでした。
でも自分で高校を選ぶと決めて、私が全国の高校のサイトを一覧化したデータを渡すと、横になったままPCで各校のサイトを眺めながら気になる学校を選び始めました。
こんなにも体調が悪い中、外部の高校に行くと自ら決めてそれに向かって進んでいこうとするエネルギーは目を見張るものがありました。
その姿を見ていると、自分で高校を選んで挑戦したいという思いはきっと息子の生きる力に繋がると信じて、彼の選択に任せようと思うようになりました。
そして母親の私にできることは、息子の看病と共に自分の不安をできるだけ解消することだと思いました。
いくら感情カウンセラーでも、病気の息子を見ていると私の感情は日々波立ちます。
息子の状態が少しでもよくなると私の心も軽くなり、めまいが悪化すると私の不安は膨らんでいきました。
そして気づいたのは、私の不安と息子の体調は連動しているということでした。
自分の中の不安な気持ちが高まっているのに、その感情に蓋をして平静を装って息子の看病をしても、いっこうに病状がよくなる気配はありません。
でも自分の中に湧き上がる感情をありのまま認めてしっかりクリアリングしてから息子と向き合うと、息子の顔つきも落ち着いてくるような実感がありました。
自分と向き合う
受験まで一か月を切っても、息子はまだ寝たり起きたりの状態でした。
そんな中、受験1週間前に息子は決心しました。
中学受験の頃を思い出し、受験日の起床時間に合わせて起床時間を30分ずつ早めていく計画を自ら立ててカレンダーに書き込み、見せてくれました。
毎日、自ら目覚ましをかけた時間に起床し、試験のある午前中はできるだけ起き上がっているようにすると実践を始めました。
そんな息子の姿を見て、私自身も改めて腹を括りました。
今私にできる唯一のことは、自分の感情と徹底的に向き合って解消して息子に接することだと思いました。
毎日仕事をしていても息子の食事を作っていても、いろいろな感情がわいてきます。
不安、怖れ、辛さ、様々な感情がわいてくるたびに一つ一つ感じて解消していきました。
その上で、感情カウンセラーの立ち位置で息子の話に耳を傾けることを続けました。
もちろん「今からカウンセリングしましょう」と息子に言っても彼は構えてしまうだけなので、私がやったのはただ自分の感情をクリアリングした上で、彼の言葉に耳を傾けることだけです。
母子一体
息子が受験までの一週間の過ごし方を決めて確実に実行していくのと共に、私自身は自分の感情に徹底的に向き合い続けました。
すると息子の体調はどんどん安定していきました。
以前は数日よくなったかなと思っても、また悪くなるという一進一退の状態が続いていましたが、私自身が不安を解消していくと息子の体調が悪化することはほぼなくなってきました。
当初めまいがきつい時はボーっとして視点も定まらない様子でしたが、次第に目つきもしっかりしてきて目力が戻ってきました。
ある時、随分おとなしいなと思って部屋を覗くと、スマホでYoutubeを見ていました。
以前の私なら「受験前に何をしているの!」と怒ったと思いますが、「スマホを見られるようになってよかったね」と心から言えました。
息子の体調の変化と自分の感情の波の相関関係を見ていくと、まだまだ母子一体なのだなと感じました。
息子が回復していく様子を目の当たりにしてから、より真摯に自分の感情に向き合うようになりました。
視点の変化
日々自分の感情に丁寧に向き合って解消していくと、以前のように不安の波が押し寄せてきて飲み込まれることも次第に減ってきました。
息子がめまいで寝込んだ半年前は、毎朝目が覚めると心の中にモヤモヤした不安を感じていました。
今日も心配で憂鬱な一日が始まると思い、朝からどんよりしていました。
そして息子が辛そうに顔をしかめて起き上がることもできない様子を見ると、鬱々とした気持ちは心いっぱいに広がっていきました。
昼間に仕事をしていても隣の部屋で寝ている息子のことが気になって仕方ありません。
でも私にできることは自分の感情をありのまま受け入れて向き合うことだと決めて取組みを始めると、自分にフォーカスできて息子のことで気をもむことも減ってきました。
自分の心の問題と息子の体調の問題を切り離せるようになり、息子との心理的距離感もとれるようになりました。
その結果、早くよくなってほしいという息子への無言のプレッシャーも減っていったと思います。
そして今のこの期間は息子の人生における”サバティカル”だと思えるようになりました。
息子はこれまで精一杯走り続けてきて、体も心も疲れていたのでしょう。
消耗した心身を癒すために必要な休暇で、しばらくの間ゆっくり休めばまた自然と活力が出てくるだろうと信頼できるようになりました。
受験についてもなるようになると思えるようになってきました。
もし仮に当日体調が悪くて希望した学校の受験ができなくても、それも彼の人生だと受け入れられるようになりました。
最終的には彼にとって最適の道が用意されるという確信も出てきました。
そんな風にとらえられるようになると、息子の体調も一段と安定してきたように思います。
ラストスパート
受験一週間前の息子のラストスパートには目を見張るものがありました。
計画通りに目覚まし時計をかけて朝起きるようになり、試験のある午前中は横にならずに起きていられるようにと、寝室でなくリビングで過ごす時間も伸びてきました。
そして受験日も元気に学校に向かうことができました。
半年前に中高一貫校の高校に進学せずに外部受験すると決めた時から息子の「自分で決める」ことの底力を見せられた思いでした。
受験を終えて息子は「受験してよかった。やればできるということがわかった。」としみじみと呟きました。
人生の選択
今回の高校受験は、半年間も寝たきり状態だった息子にとっては自分の意志で人生を決めた初めての大きな体験でした。
もし私なら起き上がれないほど体調が悪い時に人生の大きな決断をするなんてほぼ不可能だったと思います。
それを考えると息子の意志の力とそのパワーには脱帽です。
またこの経験で私自身は自分の感情に向き合って解消する、自分のことから逃げない胆力を身に着けられました。
そしてその取組みが多少なりとも息子をサポートできたと自負しています。
あんなに大変な時期を自分の力で乗り越えた息子は、この先の人生でどんなことが起きてもそれに立ち向かうことができる大きな力を身に着けたと私は信じています。
そしてこれからも彼の選択を尊重していくつもりです。
高校入学後1ヶ月半が経ち、息子は一日も休まずに元気に新しい高校に通っています。
中学時代は見向きもしなかった短期留学をしてみたいと言い出したり、また中学時代の化学部とはうって変わって軽音部に入ってベースを始めました。
お子さんが人生の岐路に立った時、親として精一杯のことをしてあげたいと思うのは親心。
その中で自分の感情をできるだけクリアな状態にして、お子さんを信頼して向き合うことはきっと大きなサポートになるはずです。
ビジネスコンサルタントとして仕事をする傍ら、社内外での人間関係、夫や子供との関係をもっと円滑にしたいと感情カウンセリングを学ぶ。その中で、自分が不安ベースで生きてきたことに気づき、これまで見ないできた感情を感じるようになると仕事&家族関係も好転し、がんばらなくても生きやすくなったという実感を持つ。
現在は、感情カウンセリングを提供すると共に、職場のワーキングファミリーコミュニティで「子育てにおける感情の取扱説明書」セミナーを継続開催するなど、感情カウンセリングの良さを伝えることも積極的に行っている。